求められる音を形にしていく。五感に触れるものづくり


安西貴史さん

【安西貴史さんプロフィール】
1986年生まれ。山形市出身。
山形大学工学部機械システム工学科を卒業後、2009年に東北パイオニアに入社。以来15年間、市販用スピーカーの開発に携わっている。

人の感情に関われる仕事がしたい、それがものづくりの原点
大学では機械系の勉強をしてきましたが、就活の際は学んできたことよりも、「人のために」という視点で会社を選んでいたように思います。それには、学生時代にガソリンスタンドでアルバイトをしていた時のバイト仲間が大きく影響しています。皆、車が大好きでカーオーディオにこだわっている人がたくさんいました。音楽を聴くことで運転が飛躍的に楽しくなったり、元気になる。バイト仲間と話す中で、そうした五感を揺さぶる世界に魅力を感じるようになりました。そのツールとしてオーディオやスピーカーに関心を持ち、東北パイオニアなら人の感情に関われるものづくりができると思い、志望しました。

量販店で販売する市販製品の発案から開発までを担う
東北パイオニアでは、自動車メーカーへ直接供給するOEMスピーカー、量販店で販売する「Pioneer」や「carrozzeria」などの自社ブランドスピーカー、ホーム用ハイエンドスピーカーと、用途や使用シーンに合わせた様々なスピーカーシステムを企画・提案しています。
その中で私が所属しているのは、量販店で販売する市販製品の設計開発部門です。新製品の開発やリプレイス(設計のマイナーチェンジ)を行う場合は、最初に企画部門やマーケティング部門と打ち合わせ、ターゲットとする客層や企画台数、原価などについて大まかなプランを立てます。実現のめどが立ったら、私の所属する設計部門で仕様の詳細やデザインなど細部を煮詰めていき、スピーカーを開発していきます。シミュレーション&試作を行い、スタジオで音を聴きながら関係者とディスカッションし、納得のいく音ができるまでトライアンドエラーを重ねていきます。その後、量産に向けた最終調整を行い、生産、いよいよ市場へ。発案の検討から、世の中に送り出すまで全てに関わるのが私の仕事です。
特に思い入れのある製品は【TS-Z900PRS】。パイオニアで2020年に発売した製品で、初代PRSスピーカーの進化版として、各音域の原音を忠実に再現し、超広帯域再生を実現しました。自然でリアル、そして実像感ある音響空間を創り上げることに成功。苦労したのは小型化と車載用3ウェイネットワークの設計です。TAD(*)のエンジニアのアドバイスも受けながら、シミュレーションやカットアンドトライを繰り返しながら取り組み、完成させたときは達成感でいっぱいになりました。(*TAD…Technical Audio Devicesの略。パイオニアの誇るハイエンドスピーカーです)

“良い音”への感覚のギャップを埋めていく苦労
“良い音”の定義は人それぞれ。同じ曲を聞いてもエンジニアによって音の感じ方や受け止め方は一人ひとり異なります。その感覚のギャップを埋めていくのはとても大事な作業であり、私自身、最も大切にしている部分です。関わっている人達が協力してパイオニアの”音”を作っていくので、知識はもちろんですが、お互いのコミュニケーションも重要になります。
数年前、海外向けのサブウーファー(低域を補うためのスピーカー)を担当したときに、企画部門から示された「お客さまからの要望」は“ズシッとくるような重みのある低音”でした。この場合、“ズシッとくる”というイメージを企画部門と我々はお互いに共有していかなければなりません。どういう方向に物性を振っていったほうが望む音に近づくのか、そのためにはどのような材料を選んだらいいのか。他にも音をつくるエンジン部である磁気回路やフレームの強度に至るまで、お客さまが求める音を実現するためにはあらゆる点で細心のアプローチが必要になります。音のイメージをすり合わせていくのは最も難しいところです。一つ一つ課題をクリアしながら音を決めていくのはとても地道な作業ですが、私の関わったスピーカーがお客さまに渡り、お客さまの感動の一助になると思えば技術者冥利に尽きます。
この仕事の魅力は、理論的に追求していく面白さがあるところ。定量的にきちんと数値を追うことができれば結果に繋がるというロジカルな部分にやりがいを感じます。思った音に近づけた時は私自身、心が震えるほど感動します。全世界のお客さまから感想を頂く機会があり、当社のスピーカーで音を聴いた人がハッピーな気持ちになってくれたことを知ったときは嬉しさもひとしおです。

100%はないサウンドの世界、自分なりの解を見つけながら
技術的な目線で言うと、実はスピーカーを構成する部品は10点ほどしかありません。それなのに100%がない、すなわち完全な解がないのがサウンドの世界です。スピーカーの歴史は100年。多くの人がものづくりに関わってきた今も正解はなく、私自身わからないことのほうが多いです。でも、これからも妥協することなく、自分なりの解を見つけられるよう、ずっと追い続けていきたいと思っています。
また、当社にはサウンド業界において、レジェンド的な存在のエンジニアがいます。彼の、常に勉強し続ける姿勢は尊敬の念しかなく、とても多くのことを学ばせてもらっています。自分もその背中を追い続けていきたいです。
自動車業界においてはEV化が進み、これからの車は単に運転をすることが目的ではなくなってくるでしょう。自動車が運転以外に、高音質な音楽を聴いてもらえる場所となる機会が広がっていけばと期待しています。
(2024/9/5取材)



東北パイオニア株式会社
東北パイオニア株式会社

東北パイオニア株式会社

1966年、天童市に創業して以来59年の歴史を持つ山形県に根ざした企業。事業の柱は世界トップシェアを誇るスピーカーを擁するサウンド事業。
自社ブランド「Pioneer」、「carrozzeria」を冠する市販スピーカー、国内外の自動車メーカーに純正・ディーラーオプション供給を行なうOEMスピーカー、そして至高の音を紡ぐ最高級スピーカー「TAD」など、多種多様なスピーカーを国内外の市場に送り出している。

東北パイオニア株式会社
代表者:代表取締役 兼 社長執行役員 髙島 直人
設立:1966年8月
従業員数:271名(2024年3月時点)(男性210名、女性61名)
事業内容:サウンド事業:車載用スピーカー/アンプ等の企画、設計、生産、営業、販売
所在地:天童市久野本字日光1105
TEL:023-654-9105
URL:https://jpn.pioneer/ja/corp/group/tohokupioneer/

Categories: 山形の達人

山形県産業科学館2024年11月イベント情報

山形県産業科学館のイベント情報です。

「空気てっぽう」や「くるくる回る糸輪」等のワークショップを実施します。

また、「からくり大発見2024 by産技短」や「クリスマスリースづくり」が開催されます。

どなたでも楽しめますので、ぜひお誘いあわせのうえ、ご来場ください!

Categories: お知らせ

東ソー・スペシャリティマテリアル株式会社

髙木 紀広さん

妥協のないボンディングで
高品質の薄膜材料を
世界に送り出す
東ソー・スペシャリティマテリアル株式会社(山形市)

東ソー・スペシャリティマテリアル株式会社は、長年培った粉末冶金の技術をベースに独自の成形、焼成、高純度化技術を開発し、スパッタリングターゲットを始めとした高品質の薄膜材料、セラミックス材料を提供しています。その技術は深化し続け、総合化学メーカーである東ソー株式会社のグループ企業として、高機能材料事業分野の一翼を担っています。

髙木 紀広さん

プロフィール
髙木 紀広 さん
1986年生まれ。山形県白鷹町出身。山形県立長井工業高校卒業。
東北工業大学に進学後、じん帯を損傷し長期入院により中途退学。宮城県内の企業に勤めた後、2015年に東ソー・スペシャリティマテリアル株式会社へ入社。
製造部ターゲット製造課に所属。

入社の動機、きっかけは?

私は、子どもの頃からものづくりが好きで、自転車をいじったり組み立てたりしていました。たぶん器用なほうだったと思います。高校は、工業高校の電子システム科に通ったのですが、「プログラムを組むよりも、手を動かしてものを作るほうが好きだし集中できるな」と思っていました。
高校卒業後は、宮城県の大学に進学しましたが、バスケットボールでじん帯を損傷し、しばらく入院していました。その後、宮城県での就職などを経て、両親と暮らすことを選び、10年前に山形にUターンしました。

当社の名前は、以前からいろいろな所で目にしていました。電子部品や半導体は、これからもどんどん必要とされてくる分野でやりがいがあるし、自分の器用さや得意分野を活かせる仕事かもしれないと思い、入社しました。

会社の良いところは?

初めて当社に来て思ったことは、「(社屋が)でかい!」でした。それから、いろいろな事業に関わっていて、世の中にとても貢献している会社だと思いました。
実際に働いてみると、職場の雰囲気がとても良く、一人ひとりの意識がとても高いと感じました。製品の品質をとても大事にしていて、気になったところがあれば、すぐ「直そう」となる感じです。すごいな、と感じました。
私が入社した頃は、年上の人ばかりで「大丈夫かな」と少し不安になったのですが、全然そんな不安は必要ありませんでした。一緒に作業しながら「ここはこうすると良いよ」という感じでアドバイスをもらい、仕事を覚えていけたので、わかりやすかったし、自然に仕事ができるようになっていきました。
それから、福利厚生がとても良くて、有給休暇もボーナスも満足しています。正直、今まで働いてきた所では、なかなかそこまで揃っていることはなかったので、条件がとても良いと思いました。

東ソー・スペシャリティマテリアル株式会社

具体的な仕事内容を教えてください。

当社は「スパッタリングターゲット※」を製造していますが、私が担当しているのは、最後の仕上げの「ボンディング」という工程です。薄膜材料となるスパッタリングターゲットをバッキングプレートというものにハンダで貼り付けるという仕事です。超音波のハンダこてを使用して、空気が入らないようにすり合わせて接着します。
対象となる製品は、基本的には四角いものが多いですが、小さいものから大きいもの、丸いもの、分厚いものなど、いろいろです。

※スパッタリングターゲット
半導体やセンサー、ディスプレイ、タッチパネルなどの薄膜を形成する材料。薄膜は、製品の強化や保護、光の制御、集積回路や表示デバイスの形成など重要な役割を担います。
その薄膜を施した製品は、自動車やスマートフォン、薄型テレビ、ゲーム機、パソコン、太陽光パネルなどに組み込まれています。

東ソー・スペシャリティマテリアル株式会社
東ソー・スペシャリティマテリアル株式会社
クロムターゲット
東ソー・スペシャリティマテリアル株式会社
ITOターゲット
東ソー・スペシャリティマテリアル株式会社
その他ターゲット

仕事をするうえで大切にしていることはなんですか?

ボンディングという作業は、一つひとつ、ほぼ手作業なのですが、先輩方の「製品の品質に妥協しない」というところを、私も見習っています。接着率の基準をクリアしていても、気になる所があれば「剥がそう」と言ってやり直すんです。「会社として恥ずかしくない製品を作る」ということを、私も意識して仕事をしています。

東ソー・スペシャリティマテリアル株式会社

仕事をするうえで大変なことは?

作業後は接着率を確認しますが、きちんとクリアできていないと剥がれる危険があるので、基準以下の場合はやり直しとなります。この作業は、剥離する準備 (一度ハンダで接着した製品を再び炉に入れてハンダを溶かす作業)もあるので、とても時間がかかり、割と大変ですね。スケジュールなど先のことも考えながらしています。

特に思い入れのある製品はありますか?

以前、テーブル1台分くらいの、大きな四角形の製品(スパッタリングターゲット) を貼るという作業がありました。4人掛かりで作業したのですが、うまく接着できず、何度もやり直しながら「こうしたらどうだろう」と試行錯誤を繰り返しました。
最終的には完成させることができたのですが、みんなで手順を確認して「次回からこうしましょう」と話し合ったことで、次に似たような製品が来た時は1回できれいに接着することができました。同じ製品でも個体差があり、同じやり方で必ずうまくいくというものではないため、その時その時で状況をみて、臨機応変にするというところがあります。慣れてくると、手に伝わる微妙な感覚でわかることがあります。そこがまた、やりがいがあるところです。

今後の目標は?

私が入社してから、若い社員がどんどん増えてきました。今まで先輩から教わってきたものを、今度は私が若手に伝えていけたらいいな、というのが今の目標です。みんなが居心地よく「ここで良かった」と思える雰囲気にしていけたらと思っています。

自分の仕事としては、今はひとつの工程を担当していますが、少しずつ他の工程にも関わっているので、仕上げ全体の生産管理というか、流れを把握できるようになっていきたいと思います。

東ソー・スペシャリティマテリアル株式会社
本社内のディスプレイ。さまざまな最新技術が紹介されている。

ものづくりに興味のある方へメッセージをお願いします

私は、必要とされている分野で自分の技術や特技を生かしたいという気持ちがあり、当社に決めました。「これだったらできそう」というものよりは、「ちょっと大変かな」、「難しそう」と思うことにチャレンジしたほうがおもしろいし、やりがいが感じられるのかなと思います。

(2024/9/5取材)


東ソー・スペシャリティマテリアル株式会社

東ソー・スペシャリティマテリアルは当社独自の原料調製、成形技術、焼成技術により高純度、高密度で、かつ種々の形状に対応したスパッタリングターゲットをご提供しております。 また、次世代のニーズに対応するため、東ソー株式会社と連携して新たなスパッタリングターゲットの開発にも積極的に取り組んでいます。

東ソー・スペシャリティマテリアル株式会社
代表者:代表取締役社長 大道 信勝
設立:1994年12月
従業員数:64名(男56・女8) ※2024年10月1日時点
事業内容:スパッタリングターゲット製造、セラミックス製品他

所在地:〒990-2338 山形県山形市蔵王松ヶ丘二丁目1番6号(本社)
TEL:023-689-0150
FAX:023-689-0155
URL:https://www.t-smc.co.jp/

株式会社デンソーFA山形