嶋田文夫さん

打刃物の達人 嶋田文夫さん
昭和16年生まれ。昭和30年より島田製作所を営む父に師事し、長年にわたり父より技法を学び受け継いできた。山形打刃物工業協同組合の代表理事として伝統の継承と新たな取り組み、そして若手の指導にも尽力。長男大輔さんが後継者として修行中。

伝統の技に現代的センスを加味し、
機能性でもデザイン性でも選ばれる逸品へ
鉄と鋼を高温の炉で熱する嶋田さん
鉄と鋼を高温の炉で熱する嶋田さん

刀匠鍛冶の伝統を受け継ぐ山形打刃物。その始まりは今から650年ほど前まで遡ります。嶋田家は代々の鍛冶職人で、文夫さんの父親の代で分家して島田刃物製作所をスタートさせました。現在は2代目の文夫さんと3代目の大輔さんが伝統の職人技を受け継ぎ、また打刃物の新たな可能性にも挑戦しています。多彩な打刃物の中でも包丁・鉈・のざし(山刀)・小刀などの刃物類を得意とし、「山形兼一」のブランド名で商品展開。その機能性はもちろん、現代的なセンスを取り入れたデザイン性の高さでも注目を集めています。

10年でようやく一人前の入り口、
“冷間鍛造”と“自由鍛造”の打刃物
何度も何度も打って、叩いて、鍛える打刃物
何度も何度も打って、叩いて、鍛える打刃物

鉄と鋼(はがね)を打って鍛えて創り出す、それが打刃物。私たちがイメージする刃物よりも強靱で、手入れ次第で長年にわたって鋭い切れ味を保ち続けます。嶋田さんは、中学を卒業すると鍛冶職人である父親のもとに弟子入り、修業をスタートさせました。父親が師匠といっても手取り足取り教えてくれるわけではなく、ただひたすら見よう見真似で技を盗んでいったと言います。

「職人は、教えられるのではなく、師匠の仕事ぶりをじっと見て、疑問を持ち、いろいろ試行錯誤しながら自分自身で覚えていかないと身に付かないんですよ」と嶋田さん。現在、修業中の3代目・大輔さんにも同じような指導をしています。

打刃物の製造工程としては、まず、鉄を熱して、そこに鋼を鍛えてつける鍛接という作業があります。この火加減が難しく、長年の経験こそがものを言います。鉄を熱して叩く「火造り鍛造」を繰り返し、強度を増しながら形を整えた後に、ワラ灰の中に入れてゆっくり冷まし焼き入れに入ります。しかし、山形打刃物の場合は、焼き入れに入る前にもう一度叩く「冷間鍛造」という工程をもう一手間。それによって、組織を詰めて強度を増すのだそうです。さらに、山形打刃物は、型を使わずに職人が形作っていく「自由鍛造」。ひときわ熟練の技が求められる技法とあって、十年修業を積んでようやく一人前の入り口という厳しい世界です。

冷ました鉄をもう一度叩く「冷間鍛造」
冷ました鉄をもう一度叩く「冷間鍛造」

異業種とのコラボで製品に物語
打刃物をより魅力的にプロデュース
洗練された製品は山形セレクションにも認定(写真上が「わらび」)
洗練された製品は山形セレクションにも認定(写真上が「わらび」)

この道50年、すっかり熟練の域に達している嶋田さんですが、その探求心・向上心は衰えることなく、まだまだやりたいことがあると言います。そんな思いから、2006年には山形打刃物工業協同組合の有志で「山形こだわり打刃物工房“鍛冶匠”」プロジェクトを立ち上げ、現代の生活スタイルに合った斬新なデザインの製品を提案。また、組子家具や鋳物などの地場職人らとともにNPO法人「FUIGO」を設立。伝統の技と現代風のデザインを融合させた製品づくりをともに追究し、共同で各種展示会への出展なども行っています。

「物語性がないと商品は売れません。打刃物の枠に捕らわれることなく、いろんな人たちを巻き込んで商品展開しています。」と、伝統の技を頑なに守りながらも、とても先進的で柔軟な発想を持つ嶋田さん。代表作のひとつ、木製の鞘に収まるオシャレなデザインのテーブルナイフ「わらび」は、山形県のエクセレント・デザイン賞にも選ばれ、海外でも好評を得たほどです。黙々と鉄を打つ鍛冶職人には、新しいものづくりに挑み続けるクリエーターというもう一つの顔がありました。

(2009/1/30取材)

有限会社島田刃物製作所

有限会社 島田刃物製作所

島田刃物製作所が炉 を開いて百有余年、作業場では先代の精神を受け継いだ2代目・3代目が黙々と鉄と鋼を叩き、磨き、理想の形へと仕上げていく。嶋田さん親子は、製造工程は 頑なに伝統を守りながらも、そのセールスプロモーションはいたって現代的。2009年2月にはNPO法人「FUIGO」でギフトや生活雑貨の国際見本市 「東京インターナショナル・ギフト・ショー」にも出展。現代生活に溶け込む打刃物の新しい魅力を提案し続けている。

有限会社 島田刃物製作所
代表者:嶋田 文夫
創業:明治38年
事業内容:包丁・鉈・のざし(山刀)・小刀などの製造・卸
所在地:山形県山形市桧町1-1-7
TEL:023-684-8865
FAX:023-684-8931

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