佐藤繊維株式会社

世界にはばたくメイドイン山形
世界に一つの糸を紡ぎ出す
佐藤繊維株式会社(寒河江市)

極細のモヘア糸工程を繰り返して糸の太さや本数を均一にしていく

歴史的にも絶対に作れないといわれていた極細のモヘア糸。
この糸で編んだカーディガンをオバマ大統領の就任式でミッシェル夫人が着用したことで一躍話題に。

メイド・イン・ヤマガタが世界の檜舞台に

米国オバマ大統領の就任式でミッシェル夫人が着用したやさしい風合いの黄色いカーディガン。世界的ブランド、ニナリッチのカーディガン、それがメイド・イン・ジャパン、しかもメイド・イン・ヤマガタのモヘア糸で編まれたものとわかって大変な話題となりました。柔らかい肌触りが特長で風雅な趣から「フーガ」と名付けられたその糸はアンゴラヤギの毛1グラムを44メートルまで伸ばした極細モヘア糸。歴史的にも不可能とされてきた極めて細い糸を紡ぐことに佐藤繊維が成功したのです。佐藤繊維の名が広く一般の人々にも知られるようになったのはこの一件がきっかけとなったわけですが、その数年前から繊維業界、アパレル業界ではすでに注目を集める存在となっていました。

快進撃の始まりは2007年のイタリア。30色のグラデーション糸やウールで和紙を包んだ糸など、独創的な糸をひっさげて世界最大規模のニット用糸見本市に初出展。すぐにグッチのバイヤーの目に止まり、その後もイブサンローランやランバンから注文が入るようになりました。また、毛1グラムを52メートルまで伸ばしたさらに極細のモヘア糸でシャネルから大量注文を受けるようになったのです。

ジーンズが千円以下での価格競争を繰り広げているこの時代、有名ブランドであれば数十万円はするニットと同じ糸で編んだ、佐藤繊維オリジナルのニットが数万円で大変な割安感をもって買われています。「高くてもいいものを作る」そんな佐藤正樹社長の信念に時代が追いついてきたのでしょう。

展示風景
イタリア「ピッティフィラテイ展」に出展した際の展示風景。

逆境にあったからこそ成しえた進化

世界の一流ブランドからの注文が相次ぎ、テレビ通販ではオリジナルブランド商品が瞬時で売り切れる、こんな現状からは想像に難いのですが、佐藤繊維もずっと順調だったわけではありません。他の繊維業者同様に中国製品に市場を奪われ、危機的状況に追い込まれたこともありました。それを好転させたのは現在の4代目社長、正樹さんの糸づくりへの一途な思いです。注文を受けて言われた通りのものを作るのではなく、自分たちが作りたいものを作るという方向に転換を図っていったのです。そこには当然、原料の厳選や従来通りの紡績にこだわる技術者たちとの軋轢などさまざまな試練がありました。それでも初志を貫徹し、数年後、技術者たちは独創的な糸を紡ぎ出すようになっていました。佐藤社長のアイデアで廃棄処分寸前の昔の機械を買い受けて改良し、コンピュータ制御では出来ないことを手作業で行い、より繊細な糸を紡ぐようにしたのです。この方針転換を佐藤社長は「進化」と呼び、苦しい時代を経験したからこそ成しえた変化だったと分析しています。

それなりに生き長らえる環境であったら、進化の必要もきっかけもなく静かに現状維持に甘んじていたに違いないと。「一つ事がうまくいくと、次から次へと新しいアイデアが出てくるものです」さまざまなマイナス材料を思いっきりプラスに転じた人物ならではの自信に満ちた佐藤社長の言葉です。

時代に逆行した昔の機械
時代に逆行した昔の機械
「時代に逆行した昔の機械の方がむしろ繊細な糸を紡ぐには適している」とのこと
工程を繰り返して糸の太さや本数を均一にしていく
工程を繰り返して糸の太さや本数を均一にしていく
原料である羊毛を引っ張りながら伸ばすといった工程を繰り返して糸の太さや本数を均一にしていく

一見、やり手営業マンのようでもある佐藤社長ですが、その根底にあるのはものづくりへのこだわり。お金儲けだけが目的であれば楽な方法はいくらでもあったに違いありません。佐藤社長はゼロからものを作り出す喜びを知っているからこそ、本物にこだわり、そこにストーリー性を重視するプロデュース力も加わって多くの人々を魅了することにつながったのでしょう。

自社で紡いだ糸
自社で紡いだ糸
自社で紡いだ糸で製品化まで。ニット製品、アパレルでも定評がある
自社で紡いだ糸

技術プラスプロデュース力で最強ビジネス

わずか数年前までは地元の高校にいくら求人を出してもまったく人が集まらなかったという佐藤社長。それが今や東京や大阪からの就職希望者も殺到しているといいます。その多くは芸大や美大出身者。製造業は厳しいといわれている時代ですが、ゼロからものを作り出す技術を持ち、さらにそれを自らプロデュースする能力があればこんな強いことはありません。

これからは本物が評価される時代。そのことに気づいた若者たちが佐藤繊維の技と佐藤社長のプロデュース力を同時に学べるチャンスを求めてやって来るのです。もちろん、ものづくりの現場は甘いものではありません。その厳しさを体験しておくことも必ずやプラスになります。個人の力で、アイデアで今まで作れなかったものも作れてしまう製造業、佐藤社長が力説する通り、「これからは製造業がかっこいい時代」なのかもしれません。

佐藤社長
会う人に強烈な印象を与える鮮やかな金髪の佐藤社長。実は、これもファッション業界で目立ち、生き抜くための戦術の一つ
(2009/11/30取材)

佐藤繊維株式会社

佐藤繊維株式会社
佐藤繊維は、1932年に創業者佐藤長之助(現在の社長の曾祖父)が周辺農家とともに羊を育て、その羊毛を原料とした毛紡績業を興したことに始まる。それだけに原材料に対するこだわりは強く、南アフリカのモヘア、ペルーのアルパカ、モンゴルのカシミアなど、世界中で厳選したものばかりを使用。その後、紡績部門を中心にニット製造部門、アパレル部門へも進出。2001年、社長と婦人の名前を冠したオリジナルブランドM.&KYOKOのコレクションはNYで最初に発表された。昨年8月には糸のショールーム、9月には都内百貨店にショップをオープンさせている。
代表者:代表取締役社長 佐藤 正樹
創業:昭和7年8月
従業員数:100名
事業内容:梳毛紡績糸、特殊紡績糸製造、販売、ニット製品製造、卸し、
     オリジナルブランドの製造、卸し、販売
所在地:山形県寒河江市元町1-19-1
TEL:0237-86-3131
FAX:0237-86-7716
URL:http://www.satoseni.com
前のページは
次のページは
世界にはばたくメイドイン山形  山形を選んだUターン・Iターンの先輩たち  ヤマガタの未来を切り開く女性たち  山形の達人  プロフェッショナルへの道