五十嵐悌一さん

消費者の声に耳を傾け、
現状に満足することなく
さらなる安心とおいしさを
探求する。
平田牧場グループ/株式会社平牧工房
(酒田市)

平田牧場グループは、豚肉の生産から加工・流通・販売、さらには外食事業にいたるまで自社で一貫して取り組む、国内では他に類を見ない企業展開を行っています。その加工本部としてハム・ソーセージなどの製造にあたっているのが「平牧工房」です。平牧工房は今から30数年前、日本初と言われる化学合成食品添加物を一切使用しないソーセージの開発にチャレンジした会社ですが、五十嵐さんはその歴史ある商品開発課の課長として、安全・安心のおいしさ追究を日々続けています。

五十嵐悌一さん

プロフィール
五十嵐 悌一 さん

昭和43年生まれ。
山形県鶴岡市出身。
北里大学獣医畜産学部卒業。
1993年株式会社太陽食品(現・平牧工房)入社。

1995年 2年間の現場作業経験を経て商品開発課へ。5年ほど前から開発現場の責任者となり、現在に至る。

入社の動機、きっかけは?

出身は鶴岡市大山で、大学は畜産学科を卒業しました。その経歴を生かせる仕事を地元庄内地方で探していたところ、当時は「太陽食品」という名称だった、この「平牧工房」に出会いました。人間の営みに欠かせない衣食住、いずれかにかかわる仕事がしたいと思っていたので希望がかなった感じでしたね。

具体的な仕事内容を教えてください。

入社して2年間ぐらいは現場研修ということで、ひたすら現場でハムやソーセージを作っていました。その後は、商品開発課で新商品のレシピを作り、試作を経て現場スタッフへの指示や指導にあたっています。また、首都圏をはじめいろいろなところを飛び回って消費者との交流会に出席するのも重要な仕事のひとつ。生協の中でも特に消費者意識の高い「生活クラブ」と産直提携をしているので、商品を作っている者として具体的に原料から間違いのないものを使っているという説明に回っています。その際には、消費者からの反応や要望などもしっかり聞き取りしてくるようにしています。
つまり、食べる人の顔を見ながら作っているというわけですね。もちろん、一般市場に出回っている商品もいろいろありますが、そのうちの8割から9割は何らかのカタチで私が開発に携わっています。そして、ここ5~6年前からは開発現場における実質的な責任者をやらせてもらっています。

この仕事のどこに魅力ややりがいを感じますか。

豚の品種開発から生産・加工、流通管理まですべて自社で行うという、かなり特殊な企業形態をとっているという点で、まず誇りを持って仕事をすることが出来ています。特に、食肉分野はいまや日本でも有数のブランドとして評価をいただいていてとても有り難い話です。これまでさまざまな商品開発に携わってきましたが、もっとも誇らしく思えるのはなんといっても無添加のハム・ソーセージ作りのパイオニアということでしょうか。「無添加のソーセージが食べたい」という消費者の声を受けて、30数年前から挑戦がはじまって9年後にようやく完成にこぎ着けたという超ロングランの商品開発。それまでだれもやったことがなかった添加物を加えない無着色のソーセージを作った当時の先輩の努力や技術力はまさに想像を絶します。

先輩が切り開いた歴史を受け継ぐ者として、やりがいとともに重責を感じます。それと、ヨーロッパで暮らしていた経験もある県出身の某著名人が、私の作った生サラミを食べて「日本で初めて本当のサラミを食べた」と言っていたという話を聞いたときは実にうれしかったですね。

保存料や着色料などを一切使用しない無着色のソーセージの加工風景
保存料や着色料などを一切使用しない無着色のソーセージの加工風景
 消費者の要望に応えて、17年の歳月を経て開発に成功した無添加ソーセージ
消費者の要望に応えて、17年の歳月を経て開発に成功した無添加ソーセージ

逆に、いちばん大変だと思うことは何ですか?

不要な添加物を使わないなど、徹底した品質追究によって「平田牧場なら安心。」という信頼を得てきていますから、受け継いだものをさらに進化させて次に伝えていかなくてはいけないという使命感、それはある意味すごいプレッシャーですね。生産から食肉加工・販売まで一貫して自社でやっていて生産履歴がハッキリしているわけですから、そのメリットをどれだけ商品に反映できるかという課題もあれば、豚の部位を必要に応じて指定して輸入・購入する加工場と違って、自社の生産状況に合わせた加工体制をとっていく臨機応変さも求められます。
また、「生活クラブ」に提供している商品は、消費者の要望ありきで開発がスタートすることが多いので品質・納期などの条件面はいっそうシビアでとても大変な仕事ではありますね。

無添加のハム・ソーセージにはより厳しい衛生管理が求められる
無添加のハム・ソーセージにはより厳しい衛生管理が求められる

この仕事に適性を感じる点は?

自分がこの仕事に向いていると思ったことは一度もないですよ。そう思ってしまうときっとあぐらをかいてしまうでしょう。大学で畜産を学んできたと言っても直接仕事に役立っているとは思えないし、会社に入ってから身につけたことの方が断然大きいですからね。この仕事が自分に合っているという思いは一切なくて、評価するのは食べる人、自己満足になってはいけないと肝に銘じています。

半年間寝かせたプロシュート。触って状態を確認し、出荷時期を決める
半年間寝かせたプロシュート。触って状態を確認し、出荷時期を決める

この仕事に取り組む上でモットーとしていることは?

思い込まないこと。凝り固まってしまうと新しいものが生み出せません。日々新しいことを追究しなければならないので物事を客観的に見るようにしています。会社に入る前までは、ハム・ソーセージの味の違いなどまったくわかりませんでしたが、意識して食べるようになって中身がわかってきて、気づくことも多くなりました。添加物などが入った加工品もいろいろ食べてみて、どれが本当の味なのかを自身の味覚で確かめるようにしています。試作や試食を繰り返し出来上がった新しい商品のレシピを工場に渡して指示する際にはつねに「ごまかさないこと」の重要性を説いて徹底させています。

部下や後輩としては、どんな人材が望ましいですか。

この仕事をやりたいと思う心があって真面目な人。ある程度のところで妥協してしまうとそれまでのことしかできないと思うので現状に満足しない人というのも大事ですね。でも、それ以前の人柄として、新しい環境に入ったら素直に人の話が聞けるということ。仕事を覚えるまでは、言い方は悪いけど、なんでも鵜呑みに出来る人。自分が自分がという主張は吸収の邪魔、仕事を覚える邪魔になると考えています。まず、いろんなことを鵜呑みにして、その次の段階として自分を出してくれればいいと思っています。それと多少の手先の器用さがあればなおいいといったところでしょうか。

終始にこやかながら、ハム・ソーセージ作りに関しては妥協を許さない一途な思いを語る五十嵐さん
終始にこやかながら、ハム・ソーセージ作りに関しては妥協を許さない一途な思いを語る五十嵐さん

今後やってみたいこと。

マーケティング担当者からの要求があればなんでも作る。そんな意気込みで取り組んでいます。消費者が求める味や品質をどうしたら実現できるかを真剣に考えるのが私の仕事ですから。平田牧場が生産する豚は年間20万頭と決まってはいますが、それは年間を通して出荷数が一定ということではありません。日々の出荷状況に合わせて調整し、余すことなく有効に使い切る工夫をしています。加工部門を持っていればこその強みと価値をわかってもらえるように商品展開やアピールもしていきたいと考えています。

平田牧場本店で販売されている加工食品ラインナップの一例
平田牧場本店で販売されている加工食品ラインナップの一例

終始、謙虚な受け答えが印象的だった五十嵐さん。直接、消費者の口に入る商品を作っているということで、つねに緊張感を持って仕事に臨んでいる姿勢が窺えました。高品質のハムやソーセージなど、消費者の健康に貢献する商品として好評を得ながらも現状に甘んじることなく、日々研究と試作に取り組む誠実な人柄。消費者の次なる要求にもさらなる努力で応えてくれることでしょう。

(2009/9/11取材)

株式会社 平田牧場

生産・加工・流通・販売、自社一貫システムならではの徹底管理で「おいしく・安心・安全・高品質」を実践している。食料自給率や環境問題についても真剣に受け止め、稲作農家と提携し、減反田に作付けした飼料用米をトウモロコシの代替飼料として利用するなどの取り組みを行っている。

株式会社平田牧場
代表者:代表取締役社長 新田 嘉七
創立:1964年12月
従業員数:620名
事業内容:畜肉(豚・牛)生産・食肉加工・販売・外食等
所在地:山形県酒田市みずほ2-17-8
TEL:0234-22-8612
FAX:0234-22-8603
URL:http://www.hiraboku.com/

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