菊地規泰さん

山形鋳物の達人 菊地 規泰さん
1959年、400年以上続く鋳物工房の15代目と して山形市に生まれる。武蔵野美術大学造形学部彫刻学科卒業。パリ留学を目前に父親である 先代の急逝を受けて後継者となる。伝統の継承と新しいものの創造を伝統工芸の両輪と捉え、 昔ながらの技術を生かした独自ブランドを展開。 欧米および国内で高い評価と人気を集めている。

美大生から一転、400年以上続く老舗・鋳物工房の15代目に

菊地保寿堂は1604年(慶長9年)を創業の年としていますが、それ以前から鋳物づくりに携わっており、操業の歴史は400年をとうに越えます。そんな長い歴史と伝統をもつ老舗に、菊地さんが15代目として暖簾を引き継ぐ日は突然やって来ました。父である14代目の急逝により、美大生だった菊地さんはパリへの国費留学を急きょ取りやめて帰郷し、後継者となったのです。物心付いた頃にはもう鋳物工場内でよく遊び、自然に鋳物づくりに親しみ、小学4年生の時には見よう見まねで茶の湯の釜を作っていたと言います。

家業を継ぐことを特に意識することはなかったものの、ものづくりが好きで進んだのが彫刻の道。奇しくも西洋彫刻の限界を感じ、東洋美術・日本美術に興味が湧いてきた時期だったこともあり、前向きに家業を継ぎたいと思えたそうです。

菊地規泰さん

道具としての鋳物にこだわり工房としての達人を目指す

家業を継いで最初に感じたことは、達人といわれる一人の職人に頼りすぎた伝統工芸の世界の危うさ、そして、職人のアーティスト化により伝統が廃れつつある のではという懸念でした。先代の下で修業する間もなく15代目にならざるを得なかった菊地さんの不安は大きいものでした。しかし、幸いにも菊地保寿堂には先代を支えた腕のいい職人がいたことと、菊地さん自身、ジャンルは違っても彫刻というものづくりを経験してきた自信から「なんとかなる」と奮起したのだそうです。
まず、一個人を「達人」としてフィーチャーするのではなく、工房単位での鋳物づくりを目指しました。「山形の達人」というこのコーナーに菊地さん個人での登場をためらわれるほどに、工房全体を「達人」と評価されることを望んでいるのです。また、鋳物は道具であって芸術品ではないとして、使う相手のためのものづくりに徹しています。そして、「伝統産業は受け継ぎ伝えるだけでは廃れてしまう。その時代に合った新しいものを生み出していかなければならない。つまり、伝承と革新の両輪が必要」と、昔ながらの茶の湯の釜などを製造する一方で新製品の開発にも積極的に取り組んできました。

原料となる鉄から厳選
原料となる鉄から厳選
鉄を一気に溶かす炉
鉄を一気に溶かす炉
仕上げは、あら仕上げ・中仕上げ・上がり仕上げの3段階
仕上げは、あら仕上げ・中仕上げ・上がり仕上げの3段階
若手スタッフを指導する菊地さん
若手スタッフを指導する菊地さん
砂を圧縮し、鋳型を作る
砂を圧縮し、鋳型を作る

技の継承と時代に合った新しさ生き抜くための成長戦略
WAZUQUブランドの代表作「まゆ」。他産地製品と比べて垂れない注ぎ口が特徴
WAZUQUブランドの代表作「まゆ」。他産地製品と比べて垂れない注ぎ口が特徴

菊地保寿堂では、昔から薄くて保温性の良い鉄づくりを得意とし、軽くて使い勝手のいい急須や鉄瓶、茶の湯の釜などを作ってきました。芸術家の故・岡本太郎氏から彫刻作品の鋳造をいくつも依頼されていたことからも菊地保寿堂の技術レベルの高さをうかがい知ることができます。もちろん、かつて彫刻を学んでいた菊地さんの持つ芸術的感性によるところも大きかったことは言うまでもありません。そんな菊地保寿堂の伝統技術と15代目の感性が融合して生まれたのが新ブランドWAZUQU(わずく)です。薄くて保温性に優れた菊地保寿堂ならではの鉄づくりの技術を生かして、斬新なデザインのティーポットを発表。

その後、山形出身の世界的工業デザイナー奥山清行氏とのコラボレーションが実現し、WAZUQUブランドはさらに洗練されたコーヒー&ティーポットの「まゆ」や「ふく」などを世に送り出していったのです。

欧米が認めたWAZUQUブランド「逆輸入」的に国内でも大人気

2006年にインテリア界の「パリコレ」とも言われるインテリアデザインの総合見本市「メゾン・エ・オブジェ」で世界的に注目を集めたWAZUQUブランド。機能性とデザイン性を兼ね備えた、そのメイド・イン・ヤマガタは、本物を愛する欧州の人々から高く評価され、やがて評判はアメリカにも波及していきました。
現在、菊地保寿堂ではあの世界最大のカフェチェーン・スターバックスが新たに展開するお茶専門店からカップなどの発注を受けています。WAZUQU人気は一過性のブームではなくクールジャパンとして定着したと言えるのではないでしょうか。こうした欧米での話題を受けて日本国内での人気も高まり、逆輸入的現象で注文が殺到しています。

これを機に 知名度も評価も高まった山形鋳物。品質を保つことはもちろん、さらに高みを目指していかなければなりません。「つねに求められる品質以上のものを作り出すようにしています。予想や期待を超えたところにしか感動は生まれませんから。そのためにも若手スタッフのレベルアップが不可欠なんです」と、後進の育成に意欲を見せる菊地さん。今度は時代をどう読み、どんな道具を作り出すのか、次の一手に期待と関心は高まるばかりです。

山形鋳物の可能性について熱く語る菊地さん
山形鋳物の可能性について熱く語る菊地さん
軽くて保温性にも優れたコーヒー&ティーポット
軽くて保温性にも優れたコーヒー&ティーポット
(2013/11/29取材)

株式会社 菊地保寿堂

株式会社 菊地保寿堂

山形鋳物の歴史は約960年前に遡るが、菊地保寿堂は初代菊地喜平治が山形城主・最上義光の御用鋳物師として雇い入れられた1604年(慶長9年)を創業の年としている。伝統の継承と時代が求める新しいものの創造に取り組んでおり、米国万国博覧会グランプリ賞受賞(1926)、日本伝統工芸展最高賞受賞2回、日本芸術文化財団褒賞受賞など、数多くの栄誉に輝いている。また、伝統と創造の現代ブランド「WAZUQU」は、2006年に世界最高峰のインテリア見本市「メゾン・エ・オブジェ」への出展を果たし、欧米でも高い評価を得た。

株式会社 菊地保寿堂
代表者:代表取締役 菊地 規泰
創業:慶長9年(1604年)
従業員数:15人
事業内容:工芸鋳物製造業
所在地:工房 山形県山形市鋳物町12番地
TEL:023-643-4554
FAX:023-643-4563
店舗 山形県山形市銅町2丁目23番6号
TEL:023-622-2082
FAX:023-631-8794
URL:http://www.wazuqu.jp/
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