小松 寛幸さん

紬の達人 小松寛幸さん
昭和45年生まれ。専門学校卒業後、仙台の工業・建築デザイン関係の会社に入社。その後、山辺町のオリエンタルカーペットに入社。6年間在籍し本社で絨毯のデザイン、東京・大阪で営業を経験。退社後、米沢にあった織物関連の専門校で織物の基本を習得。それまで習得した知識・経験を生かし、家業である小松織物工房を継ぐことになる。

山形県中部にある白鷹町で伝統の技法を継承。
紬の達人=小松寛幸さん
紬の達人=小松寛幸さん

山形県中部にある白鷹町、人口約14,300人の町内の山間の集落にその工房はありました。『板締絣染め』という技法(全国でも珍しく町内でも2軒のみ)で絣染めを行う小松織物工房。その卓越した技術は経済産業大臣指定の伝統工芸とされています。小松織物工房の起源、それは糸の染屋。昔は織りの工程を農閑期の農家に依頼していたそうです。当時の農家には、現在の小松織物工房にあるような機織機を持っている家庭が多くありました。
時代が移り変わり、今では染めから織りまでの工程をこの工房で行っています。正式な文献などは残っていませんが、明治13年に創業されたとされる小松織工房では、約130年以上にわたり独特の技法を受け継いでいます。

希少となった繊細な技法、染めの工程『板締絣染め』
『板締絣染め』で使用している木型、数十種類のパターンがある
『板締絣染め』で使用している木型、数十種類のパターンがある

今では希少になっている技法である糸の『板締絣染め』。「何年やっていても細心の注意と集中力を必要とする作業です。」と小松さん。

『板締絣染め』とは、予め溝が彫り込んである絣板の間に糸を挟み込み幾重にも絣板を重ね、その絣板を押木とボルトで締め付け、染料をかけて染色を行う手法。使用する絣板の溝には模様が刻まれており、重ねると接触面の溝から模様が浮かび上がります。絣板で挟み込んだ糸一本一本の張りが均一でないと思い描いた模様が出ず、本来白地になるところに色が入ってしまう場合があり、それはもう製品には使えません。

小松さんは、「絣板を外す最後まで染めが成功しているか分からない」と話します。もちろん、染め上がりに問題があると織りには使えません。

絣板に直接染料を上からかける『ぶっかけ染め』
絣板に直接染料を上からかける『ぶっかけ染め』

『白鷹紬』『白たかお召』の特徴、風合いを楽しんでほしい。

『白鷹紬』は白鷹町の織物を総称した名称です。その白鷹紬に属し、小松織物工房の主力商品が商標登録されている『白たかお召』(しらたかおめし)です。
その特徴は、板締絣染めで染め上げた『かすり』の模様と、お召本来の独特な風合いだといいます。
糸1mあたりの撚りは通常、200回程度が一般的。小松織物工房で使用しているお召糸ではその10倍の2,000回の撚りをかけています。これをノリで固めたうえで織りの工程を行います。お召糸は反物の横糸の半分を占め、残りの半分を板締めで染めたかすり糸が反物を織りあげていきます。織る時の幅は約46cmありますが、湯通しする事でノリが剥がれ、撚りが戻ると約30cmまで縮みます。そこから『幅だし』という工程を行うことで約39cmの並幅と言われるサイズに。この状態になると織物の表面に鬼皺(おにしぼ)と呼ばれる『皺』がたちこれが『白たかお召』の特徴となります。生地自体が縮んでいる状態なので、しわになりにくいという利点と、縮むことで肌に接する面積が減ることで風合いを楽しめ着心地が良い生地に。「この着心地が最大の武器であり、多くのお客様に認めていただいた白鷹の織物です。」と小松さん。
他の産地にもこのような商品はありますが、違いは糸の太さと織機で使用している筬(おさ)の密度とバランス。糸と筬(おさ)の密度とバランスが『白たかお召』の風合いを出すといいます。

1枚1枚『板』を外していきます
1枚1枚『板』を外していきます
小松織工房

伝統工芸士としてのこだわりたい姿勢

「同じものを大量に作るものづくりより、『お客様からの注文や要望には応えられるものづくり』、『お客様の期待を裏切らないものづくり』を心掛けていきたい。」
『板締絣』にこだわりを持っている小松さんですが、こだわりは全ての工程に及びます。
「『糸の準備』『染め』『織り』に至る全てのこだわりが『白たかお召』です。」と語る小松さん。

『模様』が浮かびあがってきます
『模様』が浮かびあがってきます

伝統の『染め』と『織り』でつむぎ、次世代へ夢をつなぐ。今後の夢。

「次の担い手を考えたとき正直、不安要素しかありません」と話す小松さん。その不安要素をお聞きすると、原料の問題、各工程の職人の問題だといいます。染料の入手先、織機で機を織る織り手、『板締絣染め』で使用する絣板を彫る職人など。一番の問題は良質なシルクの確保。国内外における良質なシルクの確保が難しくなると想定しているそうです。
「現在携わっている職人さんも年々高齢化しており、若い人が飛び込める環境ではないかもしれません。
今後は今までの伝統ある技法をだけでなく、ソフト面で新しいものづくりを提案し新たな伝統を切り開いていきたい。色々な分野で活躍されている職人さんとも『関わり』を持ち、日本のものづくりの底上げにも貢献出来ればと思っております。」

着物の画像
白鷹つむぎの画像
白鷹つむぎ
(2016/12/27取材)

小松織工房
小松織物工房

小松織物工房

山形県指定無形文化財『本場米琉(白鷹板締小絣)』の技法で『白たかお召・紬・上布折元』を製作。糸の仕入れから染色・織りまでの全ての工程を一貫して行う。現在では全国的にみても希少な技法を用いる。9名の職人さん(織り子さん)を抱え出機(だしばた)という形式で織りを行う場を提供。織り以外は家族で製作に携わる。繊細な染めと織りの技法を継承し続けている。

小松織物工房
代表者:小松寛幸
設立:明治13年
事業内容:染物・織物
所在地:山形県西置賜郡白鷹町大字十王2200
TEL:0238-85-2032
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